堀元歯科医院 堀元 隆司 院長 RYUJI HORIMOTO
日本歯科大学を卒業後、横浜市立大学医学部附属病院歯科口腔外科に勤務。大学病院や関連病院で経験を重ね、「センター北駅」そばに開業。
日本歯科大学を卒業後、横浜市立大学医学部附属病院歯科口腔外科に勤務。大学病院や関連病院で経験を重ね、「センター北駅」そばに開業。
父は公務員として病害虫の駆除を研究していました。わたしはそんな父の仕事ぶりを間近で見ていて、理科系で実学の項目を専攻し職業にしたいと考えていました。その後男子校の高校に進学するのですが、そこを卒業する生徒の3-4割は医学部に進学します。寮での仲間からの影響は大きく、自然と医学の道に興味を示すようになりました。
ちょうどそのころ、ほほに異変を感じて手術を受ける経験をしました。ニキビかと思って触っているうちに、ほほから膿が出たのです。びっくりして皮膚科を受診したのですが、その先生からはすぐに歯科に行くように言われ、歯科医の先生からは口腔外科を受診するよう指示を受けました。原因は、昔治した虫歯が内部で再発し神経まで進行していたことでした。口腔外科の先生には歯を抜いたり皮膚を切開していただき、早急に適切な治療をしていただきました。受診した口腔外科では虫歯だけでなく、口腔がんや先天的に障害がある方の治療を行っていて、口腔外科の奥深さに触れ歯学部受験を決意しました。
歯学部卒業後は横浜市立大医学部内の口腔外科医局で5年間お世話になりました。こちらでは口腔外科が医学部の中にあり、主にがん治療を行っていましたが、内科や外科を受診して全身的に歯科治療のリスクが高い方の歯科治療、また、白血病で骨髄移植での口腔ケアなど医科と歯科の連携について当時から強く意識していました。
医局から横浜市立港湾病院に派遣され2年勤務し、非常勤でも様々な病院でも修行させていただきました。老人専門の病院に勤務したのですが、こちらでは要介護の方の口腔ケアの治療を担当させていただきました。ここまでのキャリアで得た経験が「宝」となり、1997年(平成9年)に開業しました。
かつては「一子生むと一歯失う」という話が伝わっていました。「体内のカルシウムを子供に奪われる」という迷信からですが、この話に根拠はありません。
罹患リスクが高くなる一番大きな理由は、妊婦さんの口腔環境が変わることです。まず(1)間食が多くなるなど食習慣が変わる、(2)つわりが強い方は歯磨きがしにくくなる、(3)ホルモンバランスの影響で歯茎が炎症を起こす、といったことから口内環境が悪化します。
実は歯周病と早産には相関があることが知られています。中程度の歯周病(歯周ポケットが5ミリ以上)の妊婦さんは早産のリスクが高いと言われています。歯周病菌の出す物質が血中に入り、この物質の影響で胎盤が収縮する….これが早産のメカニズムです。
熊本県天草には早産で救急搬送できる病院が少なく、そこで熊本県では妊婦さんに歯周病治療を行うモデル事業を行いました。その結果歯周病の治療を行うことで、早産、低体重児出産が減りました。
赤ちゃんとの「スキンシップ」は、成長過程でとても大切なことです。わたしはこれをなくすのではなく、お母さんのミュータンス菌(虫歯菌)を減らす治療をすべきだと考えます。
同じ歯ブラシ、はし、スプーンを使うのはやめるべきですが、それ以外は親が口内細菌を減らすよう心がければよいことですので、両親がクリーニングを受ける事を奨励しています。キシリトールの併用も効果的で岡山大学では産婦人科と連携して妊婦対象の「ミュータンス菌感染予防プログラム」を行い、母親のミュータンス菌ならびに子供へのミュータンス菌感染を低減させる成果を得ています。せっかく口内環境がよくなったら、次は子供に早い時期から甘い飲み物を摂らせないことも肝要です。
「哺乳」も子供の成長にはとても大切です。歯科的観点から申しますと、母乳を続けていただいた方が良いのです。赤ちゃんがお母さんから母乳を吸う際、舌を始めとして口のさまざまな機能を使います。このプロセスを経ませんと、口のトレーニングをしないまま成長します。そのため「口呼吸」や「舌癖」が生じて顎の成長、呼吸、飲込みや、発音にも影響が出てきます。
当院ではお母さんたちに、客観的データを取った上で指導させていただいています。横浜市では妊婦さん向けの歯科検診の認知が進んでいるそうですが、わたしは大変喜ばしいことと考えています。また日本歯科医師会では最近、歯科医師がプロフェッショナルとして「食育」の指導を行う試みを始めました。
血液内科の先生は、「歯科のケアをすると抗がん剤の副作用が少なくなる」ことを経験的にご存知です。そこでがん治療の前に歯科の治療をお勧めしています。その理由は、抗がん剤は免疫力を下げ感染症を起こすリスクを高めるからです。たとえば、カンジダ菌やヘルペスウィルスなどが猛威をふるいだします。この症状があまりにもつらいと、抗がん治療をあきらめてしまう患者さんもいらっしゃいます。
この治療プログラムをシステムとして病院で取り入れられたのは、「静岡がんセンター」の太田先生です。先生は長年にわたってデータを収集し、「口腔ケア」を実施した方としなかった方とで入院期が違うことを実証されました。わたしはその後、医科歯科連携の重要性について歯科医師会の活動を通して他職種や住民の方への啓発活動を行ってきました。手前味噌ですが、「口腔ケア・訪問歯科診療連携カード」を配布し、ご自身がこうしたケアが必要な対象者であるかどうかを知らせていただけるようにもしています。
歯の病気は慢性疾患ですので、一度罹患したらずっと経過を観察し管理しなくてはなりません。定期的にご来院いただき、とにかく進行状態を拝見させていただきたいのです。細菌を減らすための定期的なクリーニングは欧米では歯科治療のスタンダードになってきましたが、残念ながら日本では定着していません。この定期的なクリーニングを習慣化させている方は1割以下です。当院でも積極的に啓蒙活動をさせていただいていますが、クリーニングを習慣化している人は3割弱です。歯周病は9割の人が罹患しますから、こうした啓蒙はこれからも続けていきます。
みまなさまに特にお伝えしたいことは、「全身麻酔を受ける方は、是非事前に歯科医院で口腔ケアを!」ということです。全身麻酔をする際、麻酔を体内に送り込むための管を装着するのですが、これを口から気管に押し込む際、口内の病原菌がついた状態で管の先が気管から肺に入って感染症を起こすことがあります。体内は細菌が棲むのにちょうどよい環境です。手術時間が長いほど菌が繁殖しますので、術後性肺炎を起こします。近日中に全身麻酔が必要な手術を行う患者さんは、是非歯科医に相談してください。歯科医師は口内環境を判断したうえで、必要な治療をします。
人間の最後の楽しみは食事です。ご高齢の方に伺いますと、歯を失ったことを後悔される方は多いです。失ってから回復するのは難しいので、是非歯科医院に定期的に来てください。当院では高齢者向けに「健口塾」をやっていて、1回あたり8名を対象に口腔機能の評価と口腔機能改善のトレーニングを実施しています。
※上記記事は2014.11に取材したものです。
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