モザイクこどもクリニック 小林 賢司 院長 KENJI KOBAYASHI
大学卒業後、小児科を専門に研鑽を積む。新生児医療や救急医療に携わり、「センター北駅」そばに開業。
大学卒業後、小児科を専門に研鑽を積む。新生児医療や救急医療に携わり、「センター北駅」そばに開業。
学生の頃から、誰かの人生に深く関わる仕事をしたいと考えていました。当時考えていた進路は教師です。ドラマ「金八先生」の世代でしたから(笑)。その後学びを深め、さまざまな経験をしていきますと、教師以外にもさまざまな選択肢があることがわかってきました。そのひとつが医師です。子供の頃は風邪をひくとすぐに中耳炎になり、病院に行くことが多かったのですが、治療後、元気になった思い出があります。何か安心感のようなものもあったのです。こんな風にさりげなく相手と関わり良い影響を及ぼしていく、「医師」という職業に惹かれていくようになりました。
医学部に入学したときはどの科に進みどのように働くべきか漠然としていました。そこで5-6年までに、どのような患者さんと関わっていくべきか考えました。医師には人間の人生が終わっていくところを見届ける役割がある一方で、生まれてくる、あるいは生まれて来た子供を見守る役割もあります。各診療科で成人を診ている先輩たちの様子を拝見していますと、場合によっては患者さんに医師としてお説教をすることがあります。自分より人生経験を重ねてきた人に対して、このような指導をするのは向いていない気がしました。むしろ若い人たちに、「自分の経験でいうと、こうしたほうがいいと思う」といったアドバイスをしていきたかったのです。
診察する相手が子供であれば、産婦人科か小児科を選ぶことになります。子供とお母さんのどちらと接する方がよいかさらに熟考したところ、子供を診ている方がより楽しそうだと思い最終的に小児科を選びました。治ってもらいたい一心で自分がエネルギーを与えると同時に、これから育っていこうとする子供からもよいエネルギーがもらえると思いました。扉を開けて入ってきたとき肩を落としていたお子さんが、背筋を伸ばして元気に帰っていく様子を見るのは楽しいものです。
センター北を開業地として選びましたのは、自分が好きな横浜にあり子育てがしやすいことです。母校である東京医科歯科大の提携医療機関は北関東にありそちらで働く方が何かと便利ですが、自宅のある横浜の中で貢献できる場所を選びたかったのです。娘の同級生のお父さんに歯科医師の方がいらして、こちらの物件が空いている旨をお聞きしていました。当時わたしは母校の医局で24時間救急医療に携わっており、体力の限界を感じ始めていました。夜間に容体が急変するお子さんが治る手助けをしたかったのですが、年齢を重ねると自分が考える最善を尽くせなくなってきます。そこで次は、今まで培った知識と技術をフルに活かし開業医として貢献していく道を選びました。
今の季節(取材時期は2015年7月)ならやはり夏風邪です。急な発熱と発疹で驚かれた親御さんがお子さんを連れてお見えになります。近年は気温や天候が乱高下していますから、身体が環境に適応できず体調を崩しやすいお子さんが増えています。また夜の気温も高いままだと寝苦しくなり睡眠は浅くなります。大人に比べて免疫が不完全なお子さんは、免疫力が落ちて風邪を引きやすくなるのです。
こんなとき親御さんは、「薄着にして寝かせたからかしら」「お風呂に入れたから悪化したのかしら」と風邪に結び付く要因について推測し、自分を責めます。環境が普段の状態から逸脱すると免疫が下がるのですが、多くの場合不可抗力です。
親御さんは常識から想像しようと試みるわけですが、免疫学の考え方はこれとは異なっています。そこが面白い部分でもあり、積極的にアドバイスしたい部分でもあります。根拠に基づいたご説明をしたうえで、お母さんに非がないことをお伝えし、お母さんの気持ちを楽にするのも小児科医の仕事です。昔の家屋は風通しが良かったので気温が低いときは身体が冷えます。しかし気密性が高い現代の家屋では、高熱がない限りお風呂で汗をかいてさっぱりしたほうがよいのです。循環もよくなり免疫が上がります。
近年の研究で、胎児期にお母さんが食事制限をしてもお子さんがアレルギーを発症することがわかっています。お母さんはバランスよくお食事を摂ってください。生まれてきたお子さんへのケアで一番大切なのは、スキンケアです。肌が外的刺激を受けやすいことはよく知られるようになってきました。
具体的なケアの方法ですが、まず口周りをきれいにしてください。乳児期はよだれが出ますので、常に口周りは汚れています。そのままにしておきますと口の周りの肌荒れが進み、食事をする際食物アレルギーになりやすくなります。アレルギーの要因は複数ありますからこれがすべてではないのですが、口周りのケアを心がけることである程度防げます。口周りはタオルややわらかい紙で清潔に拭き取り、ワセリンなどの保湿剤でカバーしてください。汚れと一緒に皮脂がふき取られ、角質層がこすられて傷つきます。そこでそれをカバーするために保湿剤で覆うのです。失われたバリア機能をしっかり整えることが大切です。
医師になって2年目に新生児集中治療室で働いたことがありました。そのとき1000gに満たないお子さんを診させていただいたのですが、そのお子さんからは16年間年賀状が届きます。ご本人はわたしのことを覚えていらっしゃるはずがありません。当然お母さんがご指導されているわけで本人にとっては迷惑かもしれませんが、わたしは毎年成長記録としてうれしく拝見しています。生死に関わるような疾病ではないお子さんから、思いがけずお手紙を頂戴することもあります。
診療方針は、子育て世代のお母さんたちと悩みを共有し、何でも相談できる場所にすることです。これまで医局や関連病院で最先端の技術を学んできました。これをもとに少しでも子育ての手助けができれば幸いです。「この湿疹は放っておいても治るのかしら」「熱があるけど大丈夫かしら」といったことのほかに、泣いている理由でも構いません。病気に関わるものでなくても、少しでも答えが出せればうれしいです。
多くのお子さんにとって病院は怖いところです。意を決して頑張って来ているのですから、まずほめてあげたいですね。そしてなるべくストレスにならないような診療をするように心がけています。難しいことに、あるお子さんにとって良い方法が、必ずしもすべてのお子さんに正しいわけではありません。引き出しはたくさん持っていたいと思います。
今までの勤務先では1人のお子さんに関わる年数が短かったのですが、この病院なら1人1人の人生に長く関われそうな気がします。時間が経って今度は自分のお子さんを連れてきてくれるようになったら、医師冥利に尽きます。
※上記記事は2015.8に取材したものです。
情報時間の経過による変化などがございます事をご了承ください。
※新規登録またはログインすることにより、都筑区.jpの利用規約、およびプライバシーポリシーに同意したことになります。