獣医師を志されたきっかけと開業された経緯について教えてください。
やはり幼少期からの動物とのかかわりがきっかけです。物心がつくまでは「当たり前にいる」ものとして特別な愛着があったわけではなかったのですが、現在になって考えてみますと、当時家にいたポメラニアンには面倒を見てもらっていたのかもしれません。とても賢い犬で、当時はわたしのほうが完全に犬に「遊ばれて」いました(笑)。そしてずっと一緒にいた犬が死んでしまい、しばらく家には動物がいなかったので近所の家の犬の散歩を引き受けていましたが、たまたま縁あって家の前で犬を拾い、再び犬のいる生活が始まりました。
その頃は高校生になっていましたので、今度は立場が逆転し「守るべき大切な存在」として認識するようになりました。わたしが末っ子だったということもあり、自分の弟か妹、あるいは子供のようなものとして一緒に過ごしました。動物が身近にいると気持ちが落ち着きますし、生きるモチベーションが上がります。そして進路を決める時期が来たとき、母に「ずっと動物が好きだったわよね。獣医さんはどうかしら?」と言われました。大切に面倒を見てきた犬が病気になったとき、自分で治すことができる!そんな思いもこみあげてきて、懸命に勉強して獣医学科に入学しました。
卒業後はいったん県内の動物病院でお世話になり修業期間を過ごしましたが、専門的な勉強もやりたくて途中から大学内の動物病院に勤務し知識と技術を習得しました。
専門的かつ包括的な治療にも対応されていらっしゃるそうですね。詳しくお聞かせください。
実は最初に獣医師としてのキャリアをスタートさせたとき、重篤な病気を持つ動物を診察させていただいたことがありました。そのとき自分の力不足で病気を進行させてしまった苦い経験があるのです。ふだん診察するのは治せる異変が多いのですが、一方で緊急性の高い病気に罹患した動物を連れていらっしゃる飼い主さんも少なくありません。やはり飼い主さんだけでなく自分自身にも後悔が残らないような診療がしたくて、麻布大学付属動物病院で全科研修医、腫瘍科研修医に所属し、治療と同時に研究活動もさせていただきました。
ホームドクターが行う治療を「1次診療」、専門性が高く難しい専門医療を「2次診療」と呼びますが、わたしはその中間にあたる「1.5次診療」を提供できる動物病院がやりたいと思い、開業しました。実は1次診療では手におえない緊急性が高い病気を拝見することはよくあるのです。そのとき、「この病気はこちらでは治療できませんので、ご紹介する病院に連れて行ってください」と言いたくはありません。専門性が高すぎる病気であればもちろん専門の先生をご紹介しますが、できるだけ飼い主さんのご負担のないよう1か所で治療が完結するようにしたい….それがわたしの理想です。
動物病院ではさまざまな動物の種類を診させていただきますし、診療項目も眼、耳、脳、内臓など体のすべてになるわけで大変ですが、一番面白い部分でもあります。人間であれば、糖尿病が原因で目がかすむ方が最初訪れるのは眼科ですが、当然糖尿病が原因ならその後内科にも行かなくてははなりません。動物病院は風邪が原因で来ても、ケガがあればすぐにそこで治せます。そのように包括的、統合的な治療ができるところが「醍醐味」でもあるのです。最近はペットの高齢化に伴い、複合診療が必要になってきています。
現在は獣医師がわたし1名で看護師ならびに受付スタッフが2名という構成ですが、ゆくゆくは曜日ごとに専門医療の先生をお迎えできたらと考えています。
先生のご専門は腫瘍ですが、やはり動物が人と暮らすことでの影響はあるのでしょうか。
動物が腫瘍を発生する原因として住環境が影響しています。たとえば煙草を吸っている方に飼育されているネコはリンパ腫や口腔がんを発症するリスクが高くなるという報告があります。
また、庭にまかれる除草剤もそこで飼育される犬にとってリンパ腫や膀胱がんを発生させるリスクを増大させるという報告があります。
また、人間でも石綿(アスベスト)と中皮腫の発症リスクには密接な関わりがあることが指摘されていますが、犬にも同じことが言えます。飼い主さんご自身の健康はもちろんのことですが、ペットにとっても健やかに暮らせるよう住環境を整えていただければと思います。
飼い主さんがご自身でペットの健康をチェックするコツのようなものがあれば、教えてください。
まずペットと過ごす時間をできるだけ長くして、その中で感じる「違和感」を大切にしてほしいと思います。ふだんはじゃれついてくるのにずっと隅っこでじっとしている、散歩を嫌がる、ご飯を食べる量が少ない、落ち着きがない…..などいつも通りではない「何か」を感じるようにしていただけたらと思います。
一方で心配性な飼い主さんもいらっしゃいます。特に飼っていた動物が死んでしまった場合、次の動物と一緒にいて心配になる方はいらっしゃるようです。そのような場合でも根気よくお話を聞くようにしています。また異変に早く気付けば、その分病気の進行は防げますからペットの負担も費用も少なく済みます。
診察で心がけていることと、地域のみなさまへのメッセージをお願いします。
短時間で診療を終わらせ、負担をかけないことです。やはり最初に連れてこられるとき、彼らにとって自分は初対面の人間ですから、何となく緊張しているのがよくわかります。いつも「ごめんね。お腹診させて」など声をかけながら診察し、緊張を取るよう心がけています。
もう1つは飼い主さんの考え方を尊重することですね。検査に時間をかけて動物に負担をかけることはありますし、費用の問題もあります。しかし獣医師としてどうしても見逃せない病気もあります。そこで飼い主さんに十分なご説明をしご納得いただいた上で治療をします。飼い主さんのお考えとわたしの見解との間に何とか「折り合い」をつけ、後悔のないような治療をさせていただきたいと思います。
近隣にお住いの皆様には気軽に遊びに来ていただきたいです。散歩中にでもお声をかけていただき、お話をさせていただければ、飼っていらっしゃる動物のふだんの様子も拝見できますから。そんな風に、動物のことなら何でも相談できる存在でありたいのです。
※上記記事は2014.12に取材したものです。
情報時間の経過による変化などがございます事をご了承ください。
リアン動物病院 深堀 祥光 院長 YOSHIMITSU FUKABORI
- 好きな場所: 都筑区。街並みがきれいで整理されています。住みやすいですね。
- 出身地: 川崎市
- 趣味: 音楽鑑賞、動物と遊ぶこと、スイーツのお店を食べ歩きすること
- 好きな言葉・座右の銘: 怒らないこと、感情的にならないこと
- 好きな音楽: ジャズ。特にピアノをメインにした楽曲が好きです。